2006年08月03日
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オルランドと第2のオルランド

Written By: 遠野秋彦連絡先

 超銀河団の泡構造の向こうからやってきたもう1つの守護者との接触戦争の後、オルランドは忽然と姿を消す。

 しかし、単に消えて無くなった……と言うわけではない。実際に、アヤと出会ったであるとか、みんなが寝静まった夜に窓から見上げるとオルランドのデストロイヤーが浮かんでいたであるとか、目撃談には事欠かない。しかし、具体的に形ある国家としてのオルランドはまさに消滅する。より詳しく言うならば、オルランドの国土となる人口惑星や、それに準じる主要艦艇の所在を誰も確認できなくなり、外交交渉が一切できなくなった。個人レベルでの接触はあり得ても、国家レベルの接触は一切あり得なくなったわけである。

 さて、ここで歴史のスケールを大きく広げてみよう。我々は、暗黙的にオルランドを生み出した地球、つまり、便宜上第1地球と呼ばれる惑星で発祥した人類の時代について見てきた。アフリカで生まれた人類は文明を発展させ、宇宙に進出し、銀河三重衝突事件を乗り越える過程で銀河すら超えて宇宙に散らばった。そして、サリー人国家崩壊後に、そのテクノロジーの残骸を再構成することで、最強の宇宙の統一人類文化圏を形成した。それは倦怠と傲慢を生み、自らを神と誤認した彼らは第2の地球を創造し、そこに住む第2の人類との間で勃発した「父殺し戦争」によって滅んだ。

 さて、これまで我々は第2地球の人類については故意に触れてこなかったが、それはオルランドに関する悩ましい問題に直結するからである。

 第2地球の歴史は、実質的に超光速航行の理論を打ち立てたアフレイダ・イルザンに始まり、全てに決着を付ける(しかし、いったい何に決着を付けたのかはっきりしない)最終英雄ドリアン・イルザンで終わったと言いうる。

 ここではアフレイダ・イルザンの生涯を追ってみよう。

 アフレイダ・イルザンは、軍事力による抑圧を強めていく地球(第2地球)連邦政府に絶望し、宇宙船の設計士であった兄や、抑圧されつつあった穏健な思想家達と、人類文化圏の脱出を計った。

 このような脱出が可能だったのは、この時点で第2地球が所有する超光速航行技術が、移動先の詳細な重力地図を必要としたことによる。つまり、この時代の宇宙船は、亜光速船を飛ばして重力地図を作成した場所にしかハイパージャンプ(超空間跳躍)を行うことができなかったのだ。いや、実際には重力地図があってすらそれは危険な行為であり、受け入れ先の航法ステーションから支援抜きでは危険すぎる行為であった。

 このような時代にあって、アフレイダの兄は、どこにでも自由に移動できる宇宙船を実現すべく努力していた。それに目を付けたのが地球連邦の宇宙軍である。彼らは、植民惑星で反乱が起こり、航法ステーションが制圧される事態に対処する方法を求めていた。その結果、アフレイダの兄によって設計、建造されたのが超光速反乱鎮圧艦プレアデスである。プレアデスは、重力ゆらぎを自動補正する特殊装置を持ち、航法ステーション抜きで安全に植民惑星近傍に進出でき、単独であらゆる反乱を鎮圧する武装を保持していた。

 しかし、これはアフレイダ達から見て、あまりに不本意な存在だったと言える。彼らは軍の圧政に協力するのは気が進まなかったし、やはり行き先の重力地図が必要という事実に代わりはなかったからだ。

 それでも金を出してくれる宇宙軍に期待して、より理想に近いプレアデスIIの設計が進められた。だが、プレアデスIIプロジェクトは軍によって一方的にキャンセルされた。

 その後、プロジェクトは謎の老人カルヴァー・カーベンシュタインの出資によって甦る。成果は非武装宇宙船として設計・建造されたプレアデスIIIとして結実した。また、宇宙の海に憧れる一人の女性が起こした奇跡によって、彼女の持ち船として同型船のスカイラーク(E・E・スミスの著作にちなんで命名された)も建造された。

 自由を求める者達が乗り込んだプレアデスIIIとスカイラークを追跡し、止めるすべは地球連邦軍には無かった。理論的バックグラウンドは全てアフレイダ・イルザンの頭の中にあり、彼女はそれを地球に残さずにプレアデスIIIに乗り込んでしまったからだ。

 自由を求める彼らは、惑星テルミヌに植民する。やがて、テルミヌが手狭になると、近傍で条件の良い惑星を2つ開拓する。最初の開拓惑星はオルランド、2番目はネヴィと名付けられた。3つの惑星は緊密な連携を取り頭文字を取ってTON連合と名乗るようになる。アフレイダ・イルザンの理論を後追いでようやく再発見した地球人類は宇宙に進出しTON連合と接触するが、その後の人類社会の中で、TON連合は人類の良識として重要な役割を果たしていくことになる。

 さて、ここで気になるのは、オルランドという開拓惑星である。あのオルランドと名前が同じだというのは、はたして偶然なのだろうか。

 このオルランドはTON連合の軍事面を全面的に担っており、強大な宇宙軍と兵器産業を擁していた。特に、オルランドの輸出用兵器製造企業、セカンド・オルランド・インダストリ(SOI)が製造した軽巡洋艦は、金のない小規模な惑星国家が主力艦として争って買うほどの大ベストセラーとなった。

 もし、TON連合のオルランドがあのオルランドと何らかの関係があるなら、優れた兵器を製造できることは当然と言える。そういう意味で、両者には関係がありそうに思える。

 しかし、大宇宙の守護者を任じていたあのオルランドは、軍事力の行使に極めてストイックになっていたし、兵器の輸出などは一切行うことがなかった。むしろ、強力な破壊兵器が広範囲に流布することを、抑止する方向にあったとすら言える。輸出用兵器製造企業などという存在を持つのはあまりに不自然に見える。その意味では、両者はたまたま名前が一致しただけの存在にも思える。

 この問題は多くのオルランド研究家を悩ませてきたと言えるが、すっきりした答えは出ていない。ホモ・スペリオルとの「父殺し戦争」においてTON連合のオルランドが崩壊したことで、資料や物証がほとんど残っていないためだ。

 しかし、大方の研究家は、2つのオルランドが無関係ではあり得ない……という認識で一致している。そして、オルランドが外交主体としての立場を放棄したことと関係があるという意見も有力である。

 通常の国家に対して超越的な守護者を指向したオルランドは、同格の国家として外交を行う立場を放棄した……、しかし便宜上外交が可能であった方が便利なので、対等を装った国家としてTON連合のオルランドを作ったというのである。

 これとは別に、もっとエキセントリックな仮説もある。TON連合のオルランドが兵器を売るのは、オルランドが戦争を自由にコントロールするためだというのである。兵器に埋め込まれたセンサーが戦場の実態を常にオルランドに報告し続け、いざとなれば兵器の制御権を乗っ取り、戦争を中止させてしまうというのだ。

 この仮説は既に検証不可能になっている。

 セカンド・オルランド・インダストリ製造の兵器は「父殺し戦争」前半でほとんど消耗し尽くされているからだ。そして、この戦争を勝利に導いたものは、ホモ・スペリオルの裏切り者「大文字の彼(カーレ・カーツとも呼ばれる)」が横流ししたテクノロジーによって建造された聖戦艦隊(虐殺艦隊)であり、オルランドの兵器はそこでは何の働きを示していないのである。

 ただ1つだけ、興味深い証言を紹介しよう。セカンド・オルランド・インダストリ製の宇宙艦に乗り組んでいた者が晩年に語ったとされる言葉である。

 「ええ、そうです。あれは故障も少なく、整備もやりやすく、とても良い船でした。辺境の小国に過ぎない我が国が独立を維持できたのは、あの船のおかげと言っても言い過ぎではないと思いますよ。本当に……。でもね、不思議なことに無抵抗の人間を撃とうとすると、よく故障を起こすのですよ。私にはまるで、無益な殺生をしてはいけないと船が怒っているようにも思えましたね」

(遠野秋彦・作 ©2006 TOHNO, Akihiko)

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